コロナでテレビはどう変わる?『あたらしいテレビ』が投じた波紋:紀伊民報AGARA - 紀伊民報

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Kejar Tayang |
 今だからこそ生み出されるべきコンテンツがある。新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間中にNHK総合で放送された『あたらしいテレビ徹底トーク2020』はそんな番組だった。局やジャンルの垣根を越えて、リモートスタイルで“今、テレビや映像メディアができること”を議論したのは、NHK、民放、そしてネット…とテレビ局の垣根を越えて、各分野の一線で活躍する番組制作者やYouTuberら6名。そこで語られた本音トークはSNS上でも話題となった。ここでは、同番組の意義、そして成果を考察する。

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■ジャンルの垣根を越えて集結した魅力的なパネラー6名の本音トーク

 「こういう時にテレビは何ができるのだろう。いや、そもそも何かできると思うことがおこがましいのかも。でも、今だからこそ、それを考える番組を作るべきではないか」、報道以外の全ての制作が止まって在宅勤務になった3月末、そう考え始めた1人のテレビプロデューサーがいた。それが『あたらしいテレビ徹底トーク2020』(以下、『あたらしいテレビ』)番組プロデューサーの坂部康二氏だった。

 「考える場」として、まず浮かんだのが、NHKの正月恒例のトークバラエティ『新春テレビ放談』のフォーマットだった。“テレビ”について本音で語り合う同番組を、坂部氏は19年から担当している。しかし、企画を立ち上げた4月時点のNHKでは、番組制作を行う場合には「ゲストはリモート出演が必須」「スタジオ出演は局のアナウンサーのみ」といったルールが徹底されており、番外編と謳うには難しかった。それでも「ノウハウは活かせるはず」と、『新春テレビ放談』のスタッフらに相談しながら内容を固めていき、NHK総合で5月10日(日)23:00~24:00の枠で特番として放送されることに決まった。

 出演者の人選は難航することが予想された。自粛期間の真っ只中の、先の見通しが立たない時期にテレビのあり方を語ること自体がリスクと、捉えられてもおかしくないからだ。ただし、『新春テレビ放談』の人気が続く理由がそうであるように、旬の顔ぶれが揃う人選には『あたらしいテレビ』企画でもこだわりたかった。また、そこには、コロナを境にメディア環境が一変してしまっている空気感も反映させたかった。

 「(『新春テレビ放談』では)あるときは裏方目線で、あるときは視聴者の気持ちを代弁しながら、今後のテレビを占い、議論してきましたが、もう今はそこじゃないという感覚もありました。Netflixの番組が話題になり、インスタで動画を見るのも当たり前。だから、テレビ制作者の目線だけではなく、ネットや海外の視点も欲しいと考えました」
 その気持ちに快く応えた6人が、佐久間宣行氏(テレビ東京 プロデューサー)、土屋敏男氏(日本テレビ シニアクリエーター)、野木亜紀子氏(脚本家)、疋田万理氏(メディアプロデューサー)、ヒャダイン氏(音楽クリエーター)、フワちゃん(YouTuber芸人)だった。

 現役のテレビプロデューサーであり、ジャンル問わずエンタメを熟知する佐久間氏は直近の『新春テレビ放談』の出演者でもあり、番組に欠かせない1人と考えた。自他ともに認める“テレビっ子”ヒャダイン氏が「こんな時に何を考えているのか?」にも興味が湧いた。「コロナ禍の状況は自身のテレビ人生の中でどれぐらいの衝撃か」という坂部氏の問いに、「9.11や3.11、バブル崩壊も全部超えてダントツ」と返した、テレビマン土屋氏の圧倒的な説得力のある言葉をもっと聞きたかった。

 テレビドラマ好きならその名を知らない人はいないであろう、『逃げ恥』や『アンナチュラル』など時代を敏感に写し取った作品が印象的な脚本家・野木亜紀子氏も番組に相応しい人物だった。加えて、ネットや海外の目線を求めた結果、時代の最先端のメディア環境に身を置く疋田万理氏の力も借りたいと考えた。しかし、この人選ではトークバラエティとは言えないほど真面目な番組になるかもしれない。「テレビの話に誰が興味を持つのか。コロナ禍で誰もがひっ迫した状況にあるなか、テレビの話はどうでもいいと考える人も多いはず。そんな視聴者目線が欲しかった」(坂部氏)という思いから、YouTuber芸人として活躍するフワちゃんに白羽の矢が立った。

■従来のテレビでは考えられなかった演出も

 放送は1時間にまとめられたが、収録は3時間にわたった。トピックは「今見直されるドラマの再放送」といった幅広い世代のテレビ好きから関心が寄せられるものから、エンタメファンも納得の示唆に富んだ話題も提供された。見どころは何と言ってもその場の空気感から生まれる忌憚ない意見や本音。なかでも「テレビ・映像メディアにできることは?」の問いかけに対するヒャダイン氏の意見は、テレビに対するモヤモヤ感を表していた。

 「希望を伝えているテレビはけっこう少ない。YouTubeの方がいろいろ(伝えている)。(希望を伝えていない理由として)テレビ局が足かせになっていると思う。SE(効果音)が怖めに演出してくる。ネガティブが入り過ぎちゃうときがあって、(自分も)コロナ鬱的なものになりかけて、テレビから離れている」(ヒャダイン)

 また、「コロナ収束後、表現はどう変わる?」の問いかけは、多くの視聴者が自分ごととして受け止めることができたように思えた。なぜなら、SNSで発信できる今の時代は、誰もが表現者でもあるからだ。

例えば、「(これから作るドラマのことを考えると)なかなか難しい」と、苦悩を打ち明け、「(これから作るドラマが)現在進行形であれば、コロナに触れないとパラレルワールドになってしまう。キスシーンひとつとっても観ている方が“感染する”と思うと(ドラマから)心が離れてしまう」と話した野木亜紀子氏の言葉にも頷けてしまう。

 フワちゃんも「本当に手探り中」と本音を漏らしつつ、「自分の得意分野ができないことがはがゆい。うーん、スペイン風邪の時、みんなどうやってたんだろう?」と、笑いに替えた瞬間には、ぐっと距離が縮まったような感覚を覚えた。

 視聴者にとっても身近なテーマは、演者陣のトーク力もあって視聴者に親近感を与え、SNS上に寄せられた番組の感想には「優しい時間、空気感だった」という声が多く寄せられた。これには、従来のテレビの文法ではあり得ない、リモート出演だからこその「出演者6分割の画面作り」も奏功したようだ。通常のスタジオ収録のような発言者にフォーカスするカメラワークではなく、発言者以外の出演者も6等分で映し続けることにより、その表情から行間を読みとることもできた。
 出演者の佐久間氏は、番組放送後に自身のラジオ番組で「まさか発言していない時も自分の顔が映ると思わなかった」と、驚いていたが、そういった絵作りも視聴者には新鮮だったようだ。坂部氏はそれについて、「リモート動画の特徴だと思いますが、対面とは異なる親近感を与えます。年齢やキャリアの差に関係なく、誰かが喋りそうになったら待ちますよね。まるで関係性がフラットになったような感覚になります。それもあって、視聴者も番組の参加者の1人になったように感じたのではないでしょうか」と分析する。

■今変わらなくていつ変わる?番組タイトル『あたらしいテレビ』に込められた想い

 ネットの台頭によってテレビに新しさがなくなりつつあると言われるなか、「あたらしいテレビ」という言葉は皮肉にさえ感じる。この番組タイトルにも坂部氏はある想いを込めていた。土屋氏が出演後に書きつづったnoteに「最初に企画書をもらった時に、“すごいタイトルの番組だな”と思った。“テレビ”と言う単語と“あたらしい”は今一番ミスマッチだと思っていた」と、違和感を覚えたことを説明している。この矛盾も分かったうえで、坂部氏は番組を通して問いかけたかったようだ。
「テレビの明るい未来を語るだけの番組にはしたくなかったというのはあります。そもそも“テレビ”とは何を指すのだろうか。デバイスなのか、電波なのか。地上波だけに限定されるのか、Netflixはテレビとは言えないのかなど、ずいぶん考えました。地上波だけがテレビに限定することに僕自身、寂しささえも感じ、そこに固執すると面白くないと思っていました。結局、映像メディア全般を表すワンワードがないことに改めて気づかされ、多くの矛盾をはらむことも分かったうえで、敢えて『あたらしいテレビ』というタイトルにしました」

 映像メディアに身を置いて25年。これまでのキャリアを通じて感じていた思いも、番組作りに投影されている。この番組を通して、坂部氏自身も改めてコンテンツづくりを見つめ直すきっかけとなったという。そして、何より出演者にも、視聴者にも能動的に考えるきっかけを与えていた。これこそ、この番組の成果に値するものではないか。思考をめぐらすことこそを、世の中が欲しているからだ。

 ここにきて、まるで膿を出しているかのように、さまざまな根深い問題が浮き彫りになっている現状がある。SNS上の誹謗中傷やデマ、パワハラ被害、人種差別、学校教育、政策そのものの是非が問われている。「古い価値観の中でこれまで仕方がない、と思われていたものが明るみに出ている」と坂部氏は指摘する。「変わっていった方がいいし、変えていかないといけない。この時期に変わらなくていつ変わるの?とさえ思う。なんか大変だったよねと、いつの間にかなんとなく元通りにならないで欲しいと思っています」

 『あたらしいテレビ』はこうした雰囲気を敏感に感じ取り、かたちにしていた。その場で明確な答えは出ずとも、さまざまな意見が交換されるスタイルによって、感情の蓋を外す行為を促していた。実際、番組終了後に出演者たちは番組について言及し、ネット上では視聴者の語り合いが続いた。電波なり、ネットなり、その組み合わせなり、今を切り取れるものをかたちにし、届けていく。これこそが“あたらしい”テレビに求められる役割であり、番組そのものがその価値を生み出していた。
(文・長谷川朋子)

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