テレビが好きな人はリサーチャーに向いていない! 『テレビリサーチャーという仕事』 | J-CAST BOOKウォッチ - BOOKウォッチ

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Kejar Tayang |

 テレビ番組の最後にディレクターやプロデューサーらと並び、「リサーチャー」という肩書を見たことはないだろうか。本書『テレビリサーチャーという仕事』(青弓社)は、ワイドショーやクイズ番組、ドラマ、ドキュメンタリーまでテレビ番組制作になくてはならない存在であるテレビリサーチャーの仕事を紹介した本だ。

 ちなみに「テレビリサーチャー」は、本書のための造語で、「テレビ番組制作のリサーチャー」という意味だ。本稿でも以下、「リサーチャー」と書くことにする。

著者は研究のかたわらリサーチャー

 著者の高橋直子さんは1972年生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期修了。博士(宗教学)というから研究者かと思ったら、リサーチャー歴20年以上という人だ。一方では明治学院大学国際学部付属研究所研究員でもあり、『オカルト番組はなぜ消えたのか――超能力からスピリチュアルまでのメディア分析』(青弓社)という著書もある。テレビを対象とする研究のかたわらリサーチャーを続けてきたという。

 リサーチャーという仕事を高校生や大学生など若い世代に紹介することを意図しているが、いわゆる「なるには本」のように就職に至るプロセスを書いたものではない。また情報収集のテクニックや調べ方のノウハウなどリサーチャーのスキルを紹介したものでもない。リサーチャーという仕事への理解を通して、メディア、情報、コミュニケーションについて考えることが出来る入門書をめざしたものだ。

 構成は以下の通り。

 第1章 テレビリサーチャーって何?  第2章 テレビリサーチャーの仕事とは?  第3章 テレビリサーチャー史  第4章 テレビリサーチャーの育成と就職  第5章 テレビリサーチャーがなぜ必要なのか  補論 「善良な風俗」って何だろう? ――放送法からコミュニケーション政策を知る

日本では1980年代からリサーチャーが活躍

 日本のテレビ業界でリサーチャーが活躍し始めたのは1980年代だという。番組制作スタッフから依頼を受け、企画の下調べやネタ探しを行う。

 その対象は実に幅が広い。話題の人やモノ、人気タレントの最新情報、アンケート調査やインタビュー取材、ロケ地や出演者探し、また歴史・文学・経済・科学・生物などアカデミックな領域での情報収集まで含まれる。

ネットだけではダメ

 仕事のツールとしてインターネットを使うことが多いが、ネット検索だけで完結する仕事ではないそうだ。高橋さんは国立国会図書館と東京都立中央図書館の蔵書検索をして、欲しい情報が得られそうな資料を探ってから、どちらかの図書館に行くという。

 実際に高橋さんがTBS系の『世界遺産』に提出しているリサーチ資料を例に説明している。【登録理由・評価基準】【MAP】【物件概要】【基礎情報】【見どころ+ネタ(案)】【監修者候補】が基本だ。

 高橋さんは図書館に行き、資料を読み込んで基礎情報をまとめてから、具体的なサイトについて検索するそうだ。サイトについて知識が少ない段階でのネット検索は効率が悪く、時間のロスが大きいからだ。

 リサーチャーがテレビ業界で認知されるようになったのは、1986年に始まったTBS系のクイズ番組『世界ふしぎ発見!』からだという。

黒柳徹子さんも図書館に来ていた!

 34年にわたり同番組でリサーチャーをしている成田慈子さんにインタビューしている。都立中央図書館に行ったら、出演者の黒柳徹子さんがテーマについて調べものをしていたのを成田さんら何人ものリサーチャーが目撃しているそうだ。

 1990年代以降、情報バラエティ番組が増え、「女性」「放送作家の卵」という属性のリサーチャーが増えたそうだ。さらに今はクイズ番組が全盛。需要は高まっているように思えるのだが。フジテレビ系の『なるほど!ザ・ワールド』のリサーチャーとなり、リサーチ会社の役員を務める喜多あおいさんがリサーチャーの適性について、こう話している。

 「私は『テレビが好きです』という人は採用しません。テレビが好きな人が続く仕事ではないからです」  「テレビが好きというよりは、調べものの行為そのものが好きなほうがいい」

 非常にタイトな時間設定で、検索では答えが出ない課題に目を輝かす人が向いているそうだ。

情報を扱うプロの3原則

 喜多さんの著書から情報を扱うプロの3原則を紹介している。

 1 出典明記と原典主義 情報の出所をはっきりさせる  2 複数ソース主義   1カ所の情報源に頼らず、複数に当たる  3 アフターイメージ  情報が与える影響をイメージする

 今は人探しを専門にするリサーチャーやリサーチ会社もあるという。海外のへき地に住む日本人が登場したり、有名人の同級生が出てきたりする背景には、リサーチャーの存在があるわけだ。

 テレビへの不信が語られるようになった今、あらためて裏取りやチェックの重要性が認識されている。リサーチャーの仕事はますます求められるだろう。

 ネット検索が仕事の主なツールになっているようだが、ネットにはフェイクニュースもあふれている。そうした情報への対応もリサーチャーの仕事には不可欠だと思った。

 BOOKウォッチでは、『ディープフェイクと闘う――「スロージャーナリズム」の時代』(朝日新聞出版)などを紹介済みだ。

  



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